井伏鱒二の短編の中から「鯉」という一篇。
主人公が友人からいただいた鯉との不思議な関係を描く。友人は主人公に鯉を進呈したのち、6年後に亡くなってしまうのだが、その鯉は、主人公の下宿の瓢箪池から、友人の愛人の家の池、最後は早稲田大学のプールへとうつっていく。
鯉に対し、友人への気持ちと重なるからか、主人公の不可思議な想いがにじみ出ている。鯉が潜む池やプールの描写が美しい。
冒頭のシーン
「私が下宿の窓の欄干へハンカチを乾している時、青木南八はニュームの鍋の中にまっ白い一ぴきの大きな鯉を入れて、その上に藻を一ぱい覆ったのを私に進物とした。」
ハンカチを干すシーンって画になって好きです。