『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹
引き続き「ハードボイルド・ワンダーランド」から。
それにしてもよく出てきますハンカチ。
「ちびはポケットからまっ白なハンカチを出して口にあて、二、三度咳をした。そしてしばらくハンカチを点検してからもとのポケットにしまった。これは私の偏見だが、私はハンカチを持っている男をあまり信用しない。私はそのように数多くの偏見に充ちているのだ。」
ハンカチをもっていることがある種のうさんくささ、偽善さを指摘した表現でしょうか。表層的に大変紳士的であるようでその裏にあるものを予感させる象徴としてハンカチが登場します。
最近のニュースをみていると確かに、そんなことも感じてしまいます。メディアを騒がせる一流企業の高級スーツをみにまとったトップ=ある種の欺瞞に見えてくることもあるかもしれません。
もちろん媒体がそのようにニュースとしての「価値」を押し出していることも確かですが。
さてハンカチをもっていることは、そんな信用されないということではないです。
ハンカチはとても身近で親しみのある身の回りの品。
ハンカチをもつということは、ただ少し背筋を正すというか、そんなことをもとめるものかもしれません。
ワイシャツはクリーニングに出してしまえば、アイロンがかってピシッと戻ってきますが、ハンカチをクリーニングに出す人はまれでしょう。
アイロンがけはごくごくせまい私的な統計からいうと女性があまり好まない分野で必然的に自分でかける必要がある。そもそも自分で身につけるものは自分でする。もちろん家族のものもする。ちなみに自分のシャツはクリーニングに出さずに自分でアイロンをかける。そうすると服がどのようにできているかよくわかる。そして愛着がわく。
極めて狭い視野によるごく個人的な判断基準としては、ハンカチをもつ、もちろんアイロンがかかっていることが前提で、ハンカチをもっている人間はある種の人生に対する姿勢、それを表象するものとして自分の目にうつってくることがあります。
もちろんこれは偏見です。
ハンカチをもとう。ただそれだけの話でした。